タイゲームジャム潜入日記とUnityの罪

こちらTCU-CTRL場外乱闘 Advent Calenderの三日目の記事になっております。

https://adventar.org/calendars/9174

前回の記事はこちら

ゲームオタクがバイクに乗ったら想像以上に面白かったのでおすすめしたいけど、危ないので手放しに勧められないからどんな風にすすめるべきか悩む話 - 車輪の独り言

僕は生粋の自転車乗りなので自転車でええやんと思って読んでました。まあ自転車でそこら中駆けずり回っていたら確実にダサいし疲れますがね。免許さえ必要なければ……!

 

はじめに

どうもこんちは。With Ballです。
 CTRLでゲームを作り続けて早4年生に。引退の時が近づいてまいりました。
就活だったり研究だったりで全然完成に進めない折に、タイ人からゲームジャムをしないかと誘われ、私の大切な1週間を投じたましたので、その際の話をしたいと思います。

就活うまく終わったよー!とかみんなありがとー!とか、後輩にテクニックやノウ_ハウを託すなり、そんな記事にしようかとも悩みました。しかし、一定数いる僕のファンが悪口(あっこう)を書け!と念波を送り、受信しているような心持なのでそうさせていただきます。

この文章が本人に見られたらヤなんですが、仕方ない。僕の"物事を最悪の言い方で語る能力"をフル活用していきます。えー冗談が少なくとも50%入ってるのでそこを差し引いて見て頂ければ幸いです。

 私は特有のノリがありますので大変混乱する方もいると存じますので過去の記事と併せて読んでいただきたい。するとこいつはこういうやつなんだということがよくわかってよろしだと存じます。

 

with-ball.hatenablog.com

 

出会い

 彼と出会ったのは研究室でのことでした。名前は仮にサム君といたしましょう。はるばるタイランドからやってきた彼は、空中ディスプレイとかをやる我が研究室に対して「ゲームを作る研究室だと思っていた」と述べるほどのパンクロッカーでした。それに、「今度の留学生、ゲーム作ってるらしいよ。with君も作ってるでしょ?」みたいないじりが教授から降りかかってきて、対面する前から出会っていたともいえるでしょう。

 私は彼に一抹の期待を抱いていました。こいつの作るゲームがものすごく面白く、俺の人生を変えてくれるのではないかと。私はあえてサム君に「作ったゲーム見せてよ」なんて陳腐なことは言いませんでした。なぜなら私は花の香りを嗅ぎ、白馬の王子様を毒リンゴで眠らされながら待つロマンチストだったからです。彼も私の同志なら言葉ではなく、ゲームで語るはず。いずれその時はやってくると、7人の小人と共に待っていたわけですよ。

その時

 サム君が、「ゲームをクリアしたらお土産をあげるよ」という勝負を吹っかけてきました。ついに来た!彼のパソコンを囲むように同僚たちが立ち並び、「すごーい」などとエールを飛ばすシチュエーションが始まりました。

僕は一目見た画面でもう察してしまいました。「出来すぎている」と。

 画面には綺麗と言って差し支えない2Dグラフィック、モーション、エフェクト。4人の勇者が並び立ち、かがり火が燃え、石壁から漏れた光が行く先を照らしていた。嗚呼、これからこの勇者を操作してモンスターを倒したり、知恵を使って道を切り開いたり、美しき景色と友情が交錯する冒険が始まるのだろう。そんなことなど絶対起こらないと確信し、私は席に着き、マウスとボタンの外れた標準的きったねぇキーボードに手を置いた。ちなみに私のキーボードはボタンは外れてないが手垢できったねぇので別のタイプの汚さともいえるだろう。

私はサム君からの説明を受けながらキャラクターを右へと進めた。すると鍵のかかった扉があり、なるほどここで4人の勇者が内のシーフを操作するらしい。シーフを操作し始めた途端、予感は的中。シーフは前方にいた騎士にぶつかって進めなかった。

物理判定が操作しきれていない。

通常、味方キャラクター同士には物理判定を付与しない。仲間であればなおのこと。あえてぶつかる仕様にしている、それか実装する方法を知らないのどちらかだ。もしくは最悪のケース、味方同士がぶつかって満員電車の最高潮みたいな無表情を浮かべているのに疑問を持つほどの経験がない、とも考えられる。

 さて、壁を壊したり呪いを浄化したりして(どちらもアクションの判定が怪しく、モーションも無かったが、言及しないでおくよ)進むと、高い崖の上に木箱があった。ここではジャンプ力の高いシーフを先行させ、箱を落として残りのキャラクターが登っていく。いいギミックじゃないか。こういうシーンよくありますよ。ラスアスでエリーが梯子を下ろしたりとかさ。私は崖に飛び移り、箱を勢いよく押し出した。すると箱はそのまま飛んでいき、一行が直前に飛び越えた穴の中に落下して消えていった。

詰んだ。

僕の悲鳴が洞窟に反響した。落ちていった箱が復活するなどの親切な仕組みはなく、完全に詰んだ。ところが、仲間同士の物理判定が残っている。つまり仲間を足蹴にして崖を登れば攻略できるのだ。
果たして、これでいいのか。私はよくないと思う。もし意図的にこの仕様なら踏まれたときに凹むアクションかなんか実装するはずだ。for example, マリオWii.

 雑言が飛び出しそうで胸やけがした私は席を立った。難しい、とか、みんなもやってみて、とか、そんなことを言った気がする。人は第一印象で人格を決めつけるというが、サムに対する私の第一印象は最悪であった。

会話

 それからサム君に話しかける気は失せていたが、サムに対して学生たちが研究を紹介する時間がやってきた。かなり時間がかかって私の番になり、一応聞いてみた。

「僕もゲーム作ってるんだけど見る?」

with ballについてよくご存じの方はお分かりだろうが、私がこうやって何かを勧めるときは、事前にむっちゃ準備をしている。この時も例外ではなく、サム君のためにゲームのテキストを英語訳していた。結構楽しかったし、翻訳できるようにシステムを組んでいたので実践できてよかった。

 私のゲームを見るなり彼は「すごい!」とか言っていた。彼も自身がかつて作ったゲームをさらに紹介するなどしてかなり盛り上がった。まあ、どれも未完成みたいな感じであちゃー感あったけども。「ゲームをプレイする人は多いのに、作ろうとする人は少ない」という話などありて、いい感じだったが、こういう時に私の脳に影が落ちる。

「実績の伴わないこいつの言葉には価値がないのでは?」

良くないことだが、そう思った。後の彼への関わりはこの疑問を検討するフェーズがいちいち挟まった。流石の私も大人になったため、正常な判断がだんだんできるようになったんだ。最終的に50%ほど価値がないと断じたと思う。ほら、0か1かじゃなくて、アナログで人を評価できた。すごいっしょ

研究

彼も留学するからには研究して発表。ということになるが、彼が選んだテーマは「OpenPose(骨格推定ライブラリ)を使用したゲームの製作」だった。
研究だっつってんだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!

研究だっつってんだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!

研究だっつってんだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!

研究だっつってんだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!

なかなかのパンクロッカーである。さすがの私もサム君を見直したし、わざわざ洞窟でつっこみを反響させるために犬鳴トンネルまで赴いた。まあ、彼に関わることは当分ないし、日本国憲法が通じないところに行くのもこれが最後だろう。実際、週一回のゼミでもなんかむちゃよそゆきデザインのパワポを聞き流すぐらいの接点が続いた。

 しかぁーし!ゲームを作るということは、同時にテストプレイが存在する。当然そのテストは同僚である私のもとへと回ってくる。将に彼は対戦モードを実装したと供述し、テストプレイを要求してきた。結構よくできていたといえる。オープンポーズが人間の骨格をカメラから推定し、そこに当たり判定が付与され、仮想空間のオブジェクトを避けるゲームだ。
テストしてくれと言われた対戦モード、具体的に言えば「迫りくる壁を避けてそのスコアを2プレイヤーで競う」というモードだ。このモードの評価はさておいて、ここであえて言及しないでいた通常モードのご紹介だ。

「迫りくる壁を避けてそのスコアを計る」というモードだ。

変わんねぇ。どっちのモードも。やることが。(芭蕉

彼の評価が急激に下がった。どう考えてもプレイヤー1が迫りくる壁の形を創造し、プレイヤー2がそれを避けるモードだろう。これを彼に伝え、修正するのに一週間ほどかかった。そしてそれ以降、私はサムの監督に就任した感じになった。

英語がわかる民も結構いて、意思疎通に私より優れている人が結構いるのに、彼らが何かサム君を助けることはなかった。サム君の「みんなゲームやってるのに、ゲーム作ろうとする人が少なすぎる」という言葉を抽象化し「ゲームをやってるのに、ゲームに対する見識が浅い」さらにいって「遊んでるのに、遊びがどんなものか考えたことがない」ぐらいにしとこうか。研究室の人々も何が楽しいとか、何が楽しくないとかそういった意見をサム君同様持っていないようだった。私はそれがとても悲しかった。腕に生えていた謎の白い長い毛が気がつくと無くなっていた時ぐらい。

監督の悪魔

 監督の日々は最悪そのものだった。英語も訛りが強くてよくわからないので絵で伝える、はたまたソースコードで伝えるなどしていた。そして私の落ち度でもあるのだが、私が答えを出してしまうので私に指導された人間は答え待ちの指示待ちになってしまう傾向がある。我の強さが抑えきれないのは私の悪いところだが、信念を持ってるなら勝手に一人で開発して他人を頼らないでほしい。と思っているのだがなかなかそうはいかない。

 私はまるで求められたものを契約に基づいて実現する悪魔のような存在となって彼の手助けをした。Unityを私が大変嫌悪しているのは言うまでもないが、彼はUnityしか使えない。なのでUnityの仕様を推測して助けるなど、先回りで考えたり調べたりもしていた。というかもはや私の方がUnityに詳しかった。

悪魔は求められれば全力を尽くす従者。しかし悪魔は代償をもらっていく。私という悪魔の代償は自身で動くための手足と、今書いてる文章に体現される嫌悪なのだろう。悪魔を使役するのはこれっきりにして改心してほしいところだ。でもでも、人間は物理的な手足をもがれるのには大変な恐怖を感じるのに対し、精神的な手足は簡単に手放す。むしろ手放したがっている人間が多い気がする。なんでだろね。

そんなこんなでゲームを完成させたサムはタイへ帰っていった。研究が良かったかどうかなど知る由もない。そもそも研究じゃないだろ。

しかし、置き土産があった。彼のSNSアカウントだ。これをCTRLのサーバーにぶち込むなどして悪魔としての業務は終わりを告げた。

ゲームジャム

 サム君はゲームジャムに共に出場する仲間を探していた。勧誘は現行CTRLサーバーでも行われた。
当然部員たちは世田谷祭などあるし英語だしでドン引きだ。せっかくの縁だってのに何も起きないってのは彼に悪い気がしていた。最終的に私はこれを最後の仕事だと思い、引き受けた。わりと苦しみながら。

ホラージャムinタイ。そんな題名で、彼の友達が数人集りそこに私も加わった。聞く話によると集まった奴らはアーティストらしい。新しく出会う人々が衝撃の出会いになるかもと、はたまた乙女ゲームのような期待を寄せた私は1日目、何を作るか会議に出発した。ついでに目もちゃお、いや、なかよし、いーや!りぼんぐらい輝いていた。

 その日発表され、我々に課されたゲームジャム・ルールは、Dice。ゲームに賽子の要素を追加しろ、とのものだった。
また、ホラーという縛りもある。そして言語の疎通もままならない(私以外はタイ語で疎通できるが)者共が集まって作れるものであるという縛りも当然ある。
私が事前に構想していた怪物に殺されることで脱出を目指すホラーパズルゲームという案は砕け散った。そのため、タイにいる4人のメンバーからどのようなアイデアが飛び出してくるのかに私は期待し、意見を待った。

「"ペンの騎士"っていうTRPGをテーマにしたゲームがあってね、これを怪談にするとか。」

「Risk of Rain的なのはどう?」

「テンプルラン的なのは?」

「ジャックオランタンは出したいよね」

「タイのホラー映画でモンキーDルフィみたいな未亡人の復讐劇があってね」

――――――――――――――――

――――

誰もゲーム画面を描くなどしなかったのである。企画を先へと進めなかったのである。

あ~こりゃ待ってたら最悪な感じになっちまう。そこで私はモンキーDルフィ(ギア5ぐらいの性能)の腕の上でテンプルランをする感じのゲームを絵に描いて見せた。とても微妙な反応だ。じゃあお前らがなんか考えて形にしろや。しかし私は大人なのでこの声は小ゲロの状態で飲み込んだ。

暫くして私は「こいつらからは何も出てこない」と察し、かつて作ったゲームと同じような形式でいい感じに絵を描いた。なんかいくつか提案されたゲームの小慣れ感を取り入れて。
絵で示したるはモンスターの体のパーツを様々組み合わせて戦うゲームであった。この提案はさらりと受け入れられ、奴らから一つ指摘もあった。

「オートで戦闘が進むなら、プレイヤー介入要素が少なくて面白くないんじゃない?」

当然それは知っている。気づいてもらわなくては困るぐらい。ここまで来たら、あとはお前らが意見を出す番だろ。さあ来い!来い!来い!ドリフターズという漫画では、異なる時代の異なる場所の異なる思考から世界をかき回すアイデアが生まれる!これがの盛り上がりどころだ!うお~~~~~

「うぃず さん、何か、考えはある?」

 私はこの言葉を聞いた瞬間、悪魔になる決心をした。自分の中で噛み砕けるほど理解していないのに賛同を示し、自身の考えがないことを表明するとは思いもしなかった。もちろん世の中にはいろんな人間がいて、誰かの意のままに操られたいと考える人もいるだろう。こいつらはそういった人間なのだと思い込み、王子ではないと定義し、ハナシは進んでいく。

絵と実装

 さすがにグラフィックまで詳しく指示しまっては彼らの意味がなくなってしまうので「ゲームに出てくるモンスターの絵を描いてくれ。なんでもいいよ」と頼んだ。すると翌日、氷の鬼、鹿の化け物、ジャックオランタン、恐竜ロボ、フランケンシュタインが提出された。これを描いた絵師二人のイマジネーションが垣間見えて素直にうれしかった。
そしてジャックオランタン、恐竜ロボとフランケンシュタインにはどんな技を持っているか、そしてそのアイコン(象徴)まで記述されており、多少ゲームコンセプトなどとずれてしまうところがあったが、そこを調整するのが悪魔監督の仕事だと心得、腕が鳴った。

 これですよこれ。これがずっとしたかったのよ。やっと意見を出してくれましたか。というかここで初めて意見出すのなら昨日の会議いる必要なかっただろ。流石にゲームデザインは難しいかもしれないが、キャラクターとなれば絵師の領域だ。まあ、絵が全部左を向いていてちょっと頭にが昇ったが仕方ない。右向きに描いてくれとは伝えなかったからね。
これからこのキャラクター達を実装していく。ワクワクするね。Unityだから嫌なところもあるけど。実際文句はあったがとても楽しかった。それぞれのキャラに特徴をつけ、表現した。果たしてこの表現が外から見えるかはわからないが、それでもいい。ゲームエンジンの勉強にもなったし。サイコ~

 そんな間にサム君はUIを実装していた。私はUI実装が一番面白くないと思っているので、サム君にもキャラクターの実装を楽しんでほしかった。だれでも理解・実装しやすいようにクラスを作り(当社比です。)説明したつもりだった。しかし難しいらしく、UIに専念するとのことだった。悲しい。結局ゲームと呼べる部分は私だけで作ったのだ。

 サブエピソードをここで話そう。私はUnityに詳しくないという設定で行っていたのでサム君には効果音を再生するクラスの作成もお願いした。私なりに彼を立てようと思ったのだ。しかし提出されたオブジェクトは音声をリストで管理し、再生するためにはインデックスを用いて関数で呼び出すという代物だったため絶望。そいつを改造し、文字列で目当ての音声を呼び出せるようにして使用した。俺はショッカーか。
端的に言うと、こいつなんでゲームジャムという高度なことをやろうとしているんだ?と思った。一週間ならどうにかなると思ったか?確かに締め切りが一週間ならうまくいかなくても時がすべてを押し流してしまうだろう。苦しみも少ないだろう。しかし、苦しみを見つめなくては何も生まれないのではないか?

終結

 私は時間が一日ほど余って暇だったが、かなりドタバタしてゲームジャムは終了した。どのぐらいのドタバタ具合なのかというと、ビルドを見直す時間が一切ないぐらいだった。いや、見直しはしろよ。とは思うがなんか盛り上がっていたので、Ah~言わなかった。音声を作ってくれたいた奴(こいつも割とかっこよかった。僕は音を作るの好きだから何でも言ってよ、みたいなスタンスで)がサイトを作ってくれていたりしたのでスムーズに進み、ギリギリ提出は完了。そして彼らは一直線に他のチームが作ったゲームをプレイしに行った。

「このゲームやってみよーぜ」

「このゲーム進行しないんだけど」

「文句言いに行ってやろう」

醜いな。

と思った。今君らが提出したものは見直されてすらいない、勝利演出すらなく、再戦するためには再起動しなくてはならない代物だ。はっきり言ってゲームとして成立していない。また、デバックモードみたいな感じであればまだましで、変にUIとシーンを作ってしまったがために、いびつな形になっていて気持ちが悪い。彼らのやり取りをボ~っと眺めていたら、突如私に声がかかった。

「アフターパーティーがあるんだけど来る?」

 どうやら、土曜日にタイ現地でアフターパーティーがあり、そのチラシには猫耳のキャラクターが「Can't Wait!!!」などと言っている。ああ、これは社交的な場で、行く(僕の参加はオンラインでですよ。これが伝わらない君は時代遅れかもしれない。気を付けて。)べきなのだろう。ただ、これ以上私の時間が消費されれば世田谷祭に間に合わなくなる、いやそんな大袈裟なことではないが、クオリティがちょっと下がるので断った。というか、仮にも一週間かけてゲーム作ってたんだったらそのあともゲーム作り続けろよ。特別な日を誰かに決められた日にしてんじゃねーよ。

 ちなみに私のチームは総合順位では25/59、創造性が14位だが、ゲームプレイが51位でちょうど半分ぐらいということになった。まあ、妥当だね。私の頭はおかしい構造になっているので頭のおかしくない人とやると変な位置に落ち着いてしまうことがよく分かった。というか、頭のおかしいデザイナーたる私がプログラムしたら時間足りなくなるっしょ。ああ、私があと一人いて、時間がもう一週間あればなぁ。
少なくともパーティーにうつつを抜かせる出来ではないと思う。こんなこと思いながら私は普段のゲーム制作に戻った。

悪魔

 せっかくなので最後は悪魔について考えていこう。私の言う悪魔はダンジョン飯という漫画から着想を得ている。そろそろ最終巻が発売されるしアニメ放送も始まるので絶対に見ろ!!!!

delicious-in-dungeon.com

 悪魔。と言われるとキリスト教的悪魔を思い浮かべるだろう。日本の宗教で悪魔と同列に立つ存在は鬼だと言われている*1。鬼の役目は地獄で亡者を呵責することであり、それは罪の代償として行われる。また、改心を目的としているところもあるため、他人に対する「鬼!」という罵声はそんな悪いことではない。鬼は勧善懲悪を成立させる存在である、が、悪魔はどうか?

悪魔(キリスト教的なもの。仏教にもあるけどそれは無視する)は人を堕落させ、教会を滅ぼそうとする存在らしい。つまり、生きる上で完全に敵であるとされているっぽい。また、人間に力を与えると見せかけて殺人鬼的なものに変化させて楽しむ、みたいなことをしているイメージもある。

 総合すると「この、鬼!悪魔!」という罵倒は「私を更生させようと厳しい刑を課すな!私を堕落させようと近づいてくるな!」といったニュアンスになるかも。人間として正しい姿はおそらく鬼で、正しくないものが悪魔なのだが同列で罵声として使用されているのは何とも不思議な話である。

閑話休題。私は悪魔だと自称した。間違いなく、私はサム君を堕落させていたからだ。私はいきなり人を堕落させに行こうとする性格ではない。ではなぜ私は悪魔となりて日々を過ごしたのか?それはサム君が既に堕落しており、鬼となって呵責するのも気の毒だ、と思ったからだ。では、彼はなぜ、堕落していたのか?それは

Unityのせいだあああああああああああああああああああああああああ

Unityの悪魔

 宣教師たる私は堕落とは何か、Unityがどのように堕落に導くのかを説明しなくてはならない。まず堕落とは何かを定義するために、堕落の反対である神聖を定義しよう。前提としてゲームを自分で作りたくてたまらないとする。神聖はより良いものを作り出すことに宿るだろう。では逆に堕落とは、より良いものが作れなくなるという現象になるだろう。

ここで「Unityはより良いものを作り出すのに役に立つツールでしょ?」と言いたくなる御仁もおるやろけど、待ってほしい。あくま(超最高のユーモア!)で初学者に対する化学反応の話をしたい。私のような無敵マンに対してUnityは毒などではなく薬になるのは正しいが。

ということでUnityがどのように人を堕落に導くのか説法していこう。

誘惑

 Unityは簡単にゲームを作れるよ、といった誘惑を振りまいている。さらに質の悪いことに、あのゲームもこのゲームもUnityで作られているよ、と意味のないことも言っている。
そもそも、同じものを使ったからと言って同じ存在になれるとは限らない。っていうか無理だ。しかし世の中にはテレビジョンで有名人が履いていた靴を求めて駆けずり回る人間もいる。今風に言えばインフルエンサーが紹介したものは飛ぶように売れる。これらと同じようにその理由や過程には目もくれず、結果からにじみ出た権威の香りがついただけの物体をパワースポットだとして崇める行為がゲーム制作界隈でも行われているのだ。

その誘惑にかかって堕落していく人間の例を想像して、偏見で続きを書いていこう。

悪魔との出会い

 まず初めにUnityを開いた人間は何も理解できず、チュートリアルに手を出すだろう。堕落は既に始まってしまっている。ただボールを転がして物体を手に入れるだけなのに氾濫している情報、情報、情報の海。まず彼らはこの情報の海を無視することが求められる。少なくともチュートリアルの間は伝えられた指示だけを行い頭を空にすることが必要だ。人間の許容量を超えた選択肢が堕落の方向へと人を導くのだ。
 また指示に同調するだけの習慣が生まれるだけでなく、応用の効かないチュートリアルは自分の脳で考える隙すら与えない。本来であれば、システムの根底を学ぶことで、どうすればどうなるかを考えられるようになるはずだが、システムの表面をなぞることで相当人間を堕落させることができる。

 極めつけは一度簡単に3次元物体をコントロールした経験(実際は全くできてないのっだが)をすることによって、もっと根底的な公理を学ぶことに対しての拒否感を植え付ける。「以前は簡単にできたのにできないのはおかしい」という思考がレンダリングエンジンを実装している際によぎるようになる。これは生産性に大きなデバフを与えるだろう。

堕落の進行

チュートリアルを一通り終えたら、おそらく多くの人間は自身でゲームを作ろうと進むだろう。ここで二つの選択肢が訪れる。アセットを使うか使わないか。実際はどちらも堕落の道だが、アセットを使用する場合、より堕落するというのは言うまでもないだろう。使わない場合でも、結局は誰かが既に作ったものをコピーしてコードを組み上げていくことになる。なぜならばチュートリアルで培った知識は全く応用が利かないからだ。
こうして何も作り出すことはできず堕落は進行する。かろうじて自身のグラフィックなどを使用したとしても、絵描きになるのがやっとでゲームなど作れるはずがない。

一番の問題は、悪魔は学びを与えないという点だ。原因と結果の間がブラックボックスで隠されているため、超人的な勘がなくては因果関係を察することはできない。ウェブに答えを求めても、原因と結果が無機質に書かれているだけで因果を学ぶことは難しい。こういう場合はこうなる、というケースを暗記するだけになってしまう。

そしてこのような状態でも動作してしまうというのがUnityの最も恐ろしいところだ。なんとなく動作していて見栄えがいいという状態だけが残り、間違った思考が膨張していく。

いびつ

 サム君を例に挙げるが、堕落してきた人間はとても歪な体型になる。アセットをふんだんに使用したゲーム画面の見た目は悪くない。がしかし、ゲームとしての体を成していない。奇妙な当たり判定などは序の口で、ただ配置されただけの不自然な足場、触り心地が考慮されていないUIなど様々な問題がある。この問題が残っている理由が、先述の通り原因と結果の間にあるブラックボックスである。つまり、堕落した者は結果を作り出すことは得意になるが、原因を操ることができなくなっていってしまう。これはサム君の研究で作ったゲームがあたり判定や成功時のリアクションがひどかったにもかかわらず、タイトル画面が雰囲気満載だったことからもわかる。

 また、かつて3時間ほどプレイにかかる長編なのにディレクトリにセーブデータを保存している事例もあった。そのゲームのデバッグを何度かしたが、地獄であった。再起不能バグがいくつもあったのだが、そんなものは数回プレイしたらわかること。つまり、一度もデバッグを行わないまま開発が進んでいたのである。恐ろしいことだ。このエピソード、死ぬまでこすり続けるで俺は。

 In addtion、成果を誇示するときも歪になる。極端な類似例を挙げるとAI絵師だ。AI絵師描いた絵はプロンプトとモデルさえあれば誰でも作れる。それなのに絵だけを誇示する。それに対し言える感想は「とてもエッチですね」「で、そのモデル僕も使いたいから教えてよ」「いくらぐらいかかってるの?」「どのぐらい儲かる?」「今なら絶対に勝てる投資スキームが10万円!」ぐらいなもので、尊敬の念が込められていないことに気づくと、よほどの恥知らずでない限り爆死するだろう。

洗礼

と、いうことで皆様方にはUnityの悪魔に惑わされることなく、洗礼(エンジンなど使わずにゲームを作ること)を受けてほしい。物理エンジンを作れとは言わないが、ゲーム内に登場するオブジェクトの仕組みはすべて自身の手で書いてほしい。

 神は初めに光あれと言った。私もそれに倣って光を与えるところ、すなわちキャンパスを用意して読み込んだbmp画像を描画するところから始めた。Unityでは光あれと言わなくても光がある。あってしまう。これは神の後を追う我々にとって最大の屈辱だろう。

 しかし、私はCTRLの部員で、めちゃくちゃ入門書を読み「こいつなんか作る気あんのか?」と思っていた奴が超きれいなコードを書いてきたことを忘れない。そいつはまさに私の説く敬虔な教徒に見えた。だが、そいつには私から説法したことなど一度もなかった。
もしかすると私は宣教していると思いながら、知らず知らずのうちに誰かの悪魔になっていたかもしれない。おそらく正しき道は人によって異なり、私なんかが決められることではないのだろう。ぜひとも何にも捕われず、自身のやりたいことを探求してもらいたい。

 そして堕落はUnityだけによってもたらされるわけではない。悪魔は日常に潜み、我々を蝕んでいく。便宜的にUnityを悪魔とし、サム君を堕落していると説いたが、それは私の使用するC#にも私自身にも当てはまることだ。この文章を自戒とし、一層の精進を目指していきたい。

しかし、Unityだけは絶対的な悪魔であることを申し添えておく。

 

PS.

Unityで作られたゲームはマジでどこを褒めていいのかわからないからきつい。これだけホントのホントね。現在Unityを使ってて今後も使う人は厳しい道になるだろうけど使い込んでくれな。ちゃんと極めればそっちのが就職とかしやすいだろうし。

そして僕は来年度からUnrealを使うらしいです。ははは。

PS.PS.

この話のモデルになった方々、まじごめん。俺に堕落してるとか言われようが結局いいものを作れば勝ちなんで頑張ってね。そして、人にはそれぞれ役割がある。僕が堕落と説いたそれも、別の役割にとっては神聖かもしれない。ま、だから胸張って生きろよ。と思う。

 

次の記事は謎の存在プムソンくん?が書くらしいです。誰?まあ場外乱闘やし、かかってこんかい!!!!!!!!!